石鎚山で頻繁に見られるブロッケン現象の紹介
■ブロッケン現象とは?
見晴らしのよい高山で,特に日の出と夕暮れ時の時間帯に,太陽を背にして立ったときに,前方にたちこめた霧や雲海に自分の影が投影されて,その頭部を中心に虹色の鮮やかな紅環が発生する現象を『ブロッケン現象』と言います。霧の粒子による光の回折現象の1つです。
ご存じない方が多いようで新聞などでも珍しい虹として紹介されますが,普通に平地で見える「虹」は多くの場合2重になっています。それと同様に,ブロッケンも条件がよくてくっきりと出現するときは2重(時には3重?)になっていることがあります。遭遇したらよく観察してみてください。
作例については,『本館』の「ブロッケン」をご覧下さい。
■さまざまな呼び名
◎ヨーロッパでは?
ブロッケン現象は,ドイツ中北部に位置するハルツ山地の最高峰であるブロッケン山(1142m)で多く見られるのでこの名があります。ヨーロッパでは人や物の影が巨大な妖怪のように投影されて見えるところから「ブロッケンの妖怪」とも称されます。
◎日本では?
日本では「御来迎/ご来迎(ごらいごう)」と称されています。これは仏教に由来しています。「浄土への往生を願う人間の臨終の際に,阿弥陀仏や菩薩が,その人間を浄土に迎えるために現れる」ことを「来迎」というそうですが,その際に光背(こうはい)を負うて来迎するのになぞらえて,このように呼ばれるようになったようです。
これ以外に,山の御光・仏の御光,英語では「グローリー」などもあります。
◎混用
「来迎」とよく似た表現に「御来光・ご来光」があります。こちらは元々は「高い山の頂上で迎える荘厳な日の出」に敬意を表して呼ぶ名称であり,まったく別のものだと思うのですが,混用(?)されているようです。そう思い調べてみると,複数の国語辞典には両方の語義が載っています。それでも,個人的には使い分けをしたいと思います。
◎霊峰石鎚では…
石鎚山は日本七霊山の1つですから,それに敬意を表して石鎚では『御来迎・ご来迎』と呼ぶべきなのかも知れません。私のサイトでは一般の登山者や写真愛好家に馴染みのある表現ということで「ブロッケン」という言葉を使っています。
■ブロッケンを観測するには…
次の3つの条件が必要です。
(1)太陽の光が観測者の背にあったっている
(2)観測者の前方に霧の幕や雲海がある
(3)観測者の影がその霧や雲海に届く程度に太陽の傾きがある
これらの条件が揃いやすいのは見晴らしのよい高山ということになり,ブロッケンの観測証言がほとんどの場合,登山者によってもたらされる理由と考えられます。私自身,石鎚のみならず,撮影行に行った夏のアルプスでは必ずどこかで1回は出会いました。
条件(3)についてですが,影が霧に届く必要から「太陽が水平近くにある時に観測される」と解説してあることが多いですが,これは必ずしもそうとは限りません。
つまり,影が霧や雲海に届けば観測は可能なのです。石鎚では二の鎖や三の鎖小屋辺りの高さにガスが湧いていれば天狗岳から下をのぞくと太陽の位置が高くても影がガスに届きます。実際,昼間の太陽がまだ高い時に天狗岳から下に向けてカメラを構えて撮影したことがあります。夏の北アルプスの白馬岳でも同様にして腹這いになってブロッケンを撮影したことがあります。
■ブロッケンの色の濃さは何で決まる?
何よりも太陽光線が強いことが大切です。これは現場に出くわせばだれでも実感として分かります。太陽の位置がまだそこそこ高くて太陽と観測者の間に雲や霧のような遮るものがまったくない状態がよいのです。
しかし,どうやらこれだけではなさそうです。これは私の過去数十回遭遇した経験からくる科学的根拠のないほとんど勘のようなものなのですが,霧の粒子の大きさが影響しているのではないかと思えるときがあります。太陽光は十分強いのに,ブロッケンの色がもうひとつ強くならない場合がありました。むしろそういう場合の方が多いくらいで,実にくっきりと虹の輪が見えるときは珍しいのです。何が違うのかと考えた場合,霧の「質」の違いしか私には思い浮かびません。それが霧粒の大きさの違いではないかという気がしているのです。(この仮説の真偽を確かめるためにネットで検索中にヒントになるサイトを見つけました。詳細はリンク集をご覧下さい。)
私の疑問に対する科学的に正解と考えられる理論が得られた場合には,ここに追加情報として載せたいと思っています。